東京高等裁判所 昭和41年(う)2486号 判決 1967年2月15日
主文
原判決中、被告人に関する部分を破棄する。
被告人を懲役八月に処する。
但し、この裁判が確定した日から四年間右刑の執行を猶予する。
被告人から金八十二万六千六百円を追徴する。
理由
控訴趣意第一、憲法違反の論旨について。
いうまでもなく、憲法一三条は、基本的人権の主なるものを挙げ、その尊重がすべての国家活動の指導原理であることを闡明したものである。
ところで、国家公務員共済組合法(以下、単に共済組合法という)一三条が、国家公務員共済組合に使用され、その事務に従事する者は、刑法等の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなすと規定した所以は、同共済組合が、国家公務員の相互救済を目的とするものであつて、その組織、規模、管理、運営規則等に照らし、国家機関乃至準国家機関の性格を帯び、同組合における事務を公務員の事務と同等視すべき必要性が存するからである。従つて共済組合法一三条は、基本的人権の尊重に欠ける規定といえないことは勿論であつて、同条が右基本的人権を保障した憲法一三条に違反するものでないことは明白である。所論指摘の健康保険法をみるに、政府は健康保険組合の組合員に非ざる被保険者の保険を管掌するに過ぎないもの(同法二四条)であるから、健康保険事業の運営は組合のいわゆる固有事務に属し、この事務は勿論、国家機関乃至準国家機関の代行的性格を帯びる性質のものといいえず、従つて、その事務に従事する者を公務員と同等視する必要は存しないのである。しかも、右健康保険組合と前記共済組合とは、右のとおりその事務の性格上本質的に差異が存するのみならず、たとえその目的、機能が所論の如くいずれも構成組合員の相互救済にあるとしても、その設立の経緯、趣旨において根本的に異るものである。それ故、健康法に、共済組合法一三条に該当する規定がないのはむしろ当然であつて、両法を比較対照して憲法一三条違反をいう論旨は採用するに由なきものである。(三宅富士郎 江碕太郎 石田一郎)